「オナラ」や「おなかの張り」で困っている方が増えています。それも何年も一人で悩んでいたり、周囲からけげんな目で見られてつらい思いをしている方が大勢います。
1.オナラはなぜできる
オナラのもとは腸内ガスです。腸内にいる細菌が栄養を分解するときにガスを発生します。腸内ガスは腸の壁から吸収されて血の中にとけ込んで、肺から息の中に排出されたり、腸内細菌が利用してなくなるので、発生するガスが少なければオナラとして出ることはありません。
2.オナラは精神病?
オナラはのんだ空気という説があり(呑気説)、かみしめ症候群と一緒になってストレスが原因とされるようになりました。オナラの成分を測定したら、空気の成分に近かったということもあり、呑気説は猛威を振るいました。しかしよく調べると腸内で発生するガスは腸内細菌がつくっていることがわかりました。
「ストレスのせいですね。」とか「気のせいでしょう」というのは原因がわからないときの常とう文句のようなもので、それこそ気にする必要はありません。
3.オナラの成分は?
腸内で発生するガスの主成分は、水素、二酸化炭素、メタンです。腸内ガスの中に含まれる窒素は飲んだ空気か、血中からガス交換で入ったものと考えられます。
メタンはメタン菌を持っている人しか発生しません。欧米人にはメタン菌を持っている人が多く、日本人は少ないといわれています。
これらのガスは全く臭いがありません。しかしご存知の通りオナラは臭い。そのニオイをつくっているのが腐敗物質です。腐敗物質とは硫化水素、アンモニア、インドール、スカトール、アミン類などです。これらの物質は少量でもすごくくさい物質です。
4.おなかが張る理由
腸内ガスは腸の曲がりくねったところで止まって、腸がパンパンにふくらむことがあります。これがお腹が張る原因です。腸内ガスの発生量が多いときは、広い範囲で腸の中の圧力が高くなることもあります。腸内圧の高さは腸の壁の一部が外側に飛び出す憩室をつくる理由とされます。
おなかが張る理由は、腸内ガスがたくさん発生するということと、発生したガスが移動しないために苦しいという二つの面があります。言い換えると前者が「ガス腹」、後者は「ガスだまり」です。
腸内ガスはスムーズに移動すれば腸に吸収されたり、腸内細菌が食べたりしてある程度は自然と消えていきます。ガスが移動しない理由は、ぜん動運動が低下しているとか、腸がくびれて行く手がふさがれているなどが考えられます。
→オナラでお悩みの方、必見! 腸内フローラ研究でわかった「オナラ」の真実
5.オナラをつくる腸内細菌とは
腸のなかにはいろいろな細菌がいますが、私たちの体は腸のなかの細菌を選別して生かしています。つまり腸のなかに住んでいい細菌を選んでいるのです。
腸内の細菌はお互いに助け合って生きています。乳酸をつくる菌、乳酸を食べて別のものをつくる菌などたくさんの細菌が、つくったものをリレー方式で食べて細菌の集団を形成しています。
これらの細菌の中に水素や二酸化炭素をつくる細菌がいます。水素は酸素と結びついて水になりますので、酸素があると生きられない細菌の住みよい環境をつくることができます。地球ができて間もないころは酸素はなく、酸素がなくても生きられる細菌が最初に生まれたとされていて、地球上に酸素が発生すると、酸素があると生きられない菌は動物の腸内で集団で逃げ延びたといわれています。
→短鎖脂肪酸をつくる腸内細菌と腸内細菌のネットワークについて
→腸内細菌がつくる短鎖脂肪酸は、腸内細菌たちが、協力してつくる
6.オナラと善玉菌、悪玉菌の関係
おなかの中には酸素がないときに活動する細菌(嫌気性菌)が住んでいます。これまでは腸のなかには善玉菌、悪玉菌、日和見(ひよりみ)菌が住んでいると説明されています。これらの細菌は私たちの体が選んで住まわせているのに、なぜ悪玉菌までいるのでしょうか。
理由は腸内細菌には善玉も悪玉もなく、すべての菌が何らかの役割があると考えられるのです。
悪玉菌の代表とされているウエルシュ菌はヒトや動物の腸内に常在していますが、通常は悪さはしません。しかし食品中で毒をつくるウエルシュ菌が増えて食中毒事件を起こすことがあります。大腸菌も同じように食中毒を起こす種類があります。
ウエルシュ菌のなかまのクロストリジウム属の菌も、悪玉菌に分類されることが多い菌です。これらの悪玉菌とされた細菌は水素や二酸化炭素を発生するときと、硫化水素などの臭いガスを発生するときがあります。
水素や二酸化炭素は無臭で体にも良い働きをしますが、硫化水素などの臭いガスは有害です。その違いはどこから来るのでしょうか。それは腸内のpHです。細菌の性質はpHによって決まります。pHとは酸性かアルカリ性かということです。
体の中は弱アルカリ性に保たれていますが、腸の中は酸性からアルカリ性まで大きく変化します。ちなみに腸の中は体の外です(ちくわを思い浮かべてください)。
→悪玉菌が増えるとガスの発生量が増える、とは本当でしょうか?
7.悪玉菌も体に良いことをしている
悪玉菌といわれる菌のなかまには、ヒトの体にとって重要な物質(短鎖脂肪酸)をつくる菌がいます。動物が腸内細菌を住ませているいる理由は、この成分をつくってもらうことにあるといってもいいくらいです。
腸内細菌の重要な役割の一つが免疫です。悪玉菌といわれる菌が免疫を活性化したり、つくった短鎖脂肪酸が免疫を調整しています。
また体内でできたがん細胞の増殖を抑制し、花粉症などのアレルギーを防ぐ役割もしています。
このような良い働きをするのは腸内が弱酸性の時です。酸性すぎると短鎖脂肪酸をつくらなくなります。また中性からアルカリ性になると有害でくさい腐敗物質をつくります。
このようにいわゆる悪玉菌は腸内のpHによって、体に良い物質と悪い物質の両方をつくっています。
8.腸内ガスは「悪玉くん」がつくっている
このように体に良いことも悪いこともするのが「いわゆる悪玉菌」ですが、良いこともする菌に対して失礼なので、ここではとりあえず「悪玉くん」と敬意を表して呼ぶことにします。
悪玉くんは腸内が弱酸性の時は、短鎖脂肪酸をつくり、水素や二酸化炭素のガスもつくります。しかしアルカリ性になるとくさい腐敗物質をつくってしまいます。
どちらにしても腸内ガスは悪玉くんがつくっています。水素や二酸化炭素は悪玉くんのなかまが食べて酸に変えたり、腸の壁から吸収されて息の中に出ていきます。
9.おなかが張る原因
おなかが張る理由は、できたガスが移動しないこととできる量が多いことでした。
できたガスが移動しない理由は、ガスの行く手がふさがれているためです。例えば、大腸の先の方が固い便でつまっていたら、ガスは移動できません。また大腸がねじれていたり、いしゅくして細くなっていてもガスは移動できません。実は日本人の大腸はかなり変形しているらしいのです。
次はできる量が多い理由についてです。腸内細菌は大腸に住んでいるのが正常な状態ですので、腸内ガスも大腸で発生するのが普通です。しかし腸内細菌の居場所が悪いために大量のガスをつくっていることがわかってきました。
居場所が悪いとは腸内細菌が大腸ではなく小腸にいる場合です。腸内細菌が小腸にいると、体が食物を消化吸収する前に、腸内細菌が食べてガスをつくってしまうので、ありつけるエサの量が多く、その分大量のガスを発生してしまいます。
また特定の食品に過敏な状態があると、小腸で消化吸収せずに大腸に押し流してしまうので、大腸に大量のエサが流れ込みます。多くの日本人は大人になると乳糖を分解する酵素がなくなってしまいます。これが乳製品をとると下痢になったりオナラが出やすい理由です。
同じように小腸で消化吸収しきれずに大腸に流入しやすい食品はたくさんあります。オリゴ糖はもともと難消化性で小腸では消化されにくいため、大腸に到達することができ、ガスをつくります。
10.オナラを消す危険な方法
オナラを消す方法が二つあります。一つは加圧した酸素室に入ることです。これは開腹手術の際に、腸内のメタンガスの爆発を防止するために考えられました。
高圧の酸素を吸入すると血中に溶け込む気体が酸素だけになり、腸の中のガスとガス交換して腸内ガスも酸素だけになります。常圧に戻すとそのガスは血中に取り込まれて腸内のガスはなくなります。
もう一つは抗生物質を使うことです。抗生物質で腸内細菌を殺してしまうと腸内ガスをつくれなくなります。この効果は1日程度は続きますが、少しするとまた元に戻ります。抗生物質の使用は耐性菌の発生リスクがありますし、有益な腸内細菌を全滅させるため、有害な菌が増加するリスクがあります。実際、抗生物質利用によるデフィシル感染症などが問題となっています。
11.オナラを消す薬?
オナラ用の薬も市販されています。しかし発生した腸内ガスを消してしまうことはできず、できたガスの泡をつぶす消泡剤が入っています。整腸剤等も多数販売されていますが、オナラを消す夢の薬は存在しません。
12.健康的にオナラを解消する方法
困りもののオナラですが、全くオナラをなくすことはどうもできないようです。目標としては生活していくうえで困らないこと、健康であることに置くのが現実的です。
最近もっとも多いと考えられているのが、腸内細菌が小腸に上がっているケース(SIBO)です。このケースでは小腸で大量のガスの発生があります。
小腸に腸内細菌が多いと腸内ガスだけでなく、いろいろな健康上の問題があることがわかってきました。小腸の細菌を減らす最も効果的な方法は、食べない時間を長くすることです。
わたしたちは甘いものなどをつい食べてしまう生活になれていますが、自然の動物はおなかを減らして生きているのが普通で、おなか一杯食べられるチャンスはめったにありません。
おなかがへった時、おなかがグーとなることがあると思いますが、これは小腸の中身を歯磨きチューブのように大腸まで絞り出しているのです。これによって小腸内の細菌とカスを一緒に大腸に出してしまいます。
13.大腸に腸内細菌のエサが大量に流れ込まないようにする
大腸では大量の腸内細菌が口を開けて勝ち構えています。そこに小腸で消化できなかったエサが入ってくると、一気に発酵が始まります。流入するエサの量が多いと発生するガスも大量になります。
大腸にエサが大量に流入する原因は、小腸での消化が十分ではないことがあります。小腸の消化をつかさどる絨毛細胞は大腸でできる短鎖脂肪酸が大きさを決めています。つまり大腸でできる短鎖脂肪酸はシグナルとなって小腸に伝わっているのです。
大腸の腸内発酵を健全にすることで小腸の活動も正常になり、大腸に流れ込むエサも少なくなります。
14.何年もオナラと下痢が続く人は食物過敏の可能性が
オナラを伴う下痢状態は長引くことが多く、十年以上も続く場合があります。この場合は腸内に酸がたまって、pHが下がり過ぎてしまうことが原因です。
腸内pHが下がり過ぎると、乳酸やコハク酸は非常にゆっくりしか腸壁から吸収されないために、腸内に蓄積して長期間たまってしまいます。
たまってしまう理由はpHが低すぎて短鎖脂肪酸をつくる菌が働かないからです。食あたりなどの腸炎がきっかけとなって起こることが多いようです。
このような場合は特定の食品に対して食物過敏(遅延型アレルギー)になっていることが多く、その原因として大腸のバリア機能が弱くなって、腸の内容物が体の中に漏れていることが考えられます。
15.結論:自分の腸内環境を整えることが重要
おなかの張りをつくっている原因を整理します。
(1) 大腸の変形(くびれ、狭窄)
(2) 腸内細菌が小腸にいる
(3) 腸内ガスを食べる腸内細菌が少ない
(4) 小腸の消化機能の低下(絨毛委縮)
(5) ぜん動運動が少ない
(6) 大腸内に酸がたまっている
(7) 大腸のバリア機能が弱っている
これらの原因をつくっているのが、短鎖脂肪酸の不足です。短鎖脂肪酸は「悪玉くん」がつくりますが、腸内pHが弱酸性のときにしかつくれません。
また腸内細菌の連携ができていないと、つくられたガスがたまってしまいます。長い大腸の中で近くから遠くまで、腸内pHを適正にして、腸内細菌のバランスを整えることで、腸内ガスの問題だけでなく、便秘や下痢の問題が解決できます。