オナラは健康に役立つのです。本当です。

オナラの成分は水素です。

オナラの原因はストレス?

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ヒトは誰でも1日5回から20回くらいはオナラをするそうです。しかし最近、お腹の中で湧き出るようにガスが発生する人が増えています。我慢しきれず漏れてしまうことがあります。

学校では周囲に臭いが漏れることを恐れて、学校にいけなくなって不登校になる子供がいます。臭いと言われて傷ついたり、オナラが出なくても臭いと思われているのではないかと、周囲が気になります。お腹が異常に鳴ったり、無意識にオナラや下痢が漏れたりします。

下痢や便秘がひどい状態は過敏性腸症候群(IBS)といわれます。異常にオナラが出る状態も広い意味でIBSに含めてよいと思います。IBSの原因はこれまでストレスと言われてきました。試験の前とか人前で発表するときなど、緊張するとお腹の状態が悪くなるのは、誰でも経験することです。それでお腹の調子が悪くなるIBSという状態の原因は、すべてストレスと考えられたのでした。緊張すると空気を呑んでしまう「呑気症」がIBSの原因と言われているのは、そういう流れからなのです。実際、オナラには空気の成分である窒素が多いといわれています。

でも実際に困っているのは、お腹の中から湧き出るようにして起こるガスであり、そのガスがなかなか出て行かないために苦しいという状態です(膨満感といいます)。出て欲しい時に出なくて、出て欲しくない時に出てしまうというのが、この症状の悩みです。

オナラはからだに悪いと思っていませんか?

イモを食べるとオナラが出やすくなりますが、飲むとオナラが出る薬があります。糖尿病の薬、アカルボースもその一つです。

1990年にドイツで最初に承認されたアカルボースという薬が、2003年の試験で糖尿病に有効だということが証明されました。アカルボースというのはα-グルコシダーゼ阻害剤といって、デンプンを分解する酵素を邪魔して血糖値が急激に上がるのを抑える薬です。日本でも盛んに使われるようになりましたが、オナラがすごく出るということで問題になりました。

この薬を飲むとデンプンが小腸で消化されずに大腸まで届いて、そこで待ち構えている腸内細菌によって急激に発酵されて、水素や二酸化炭素が発生することが原因でした。

欧米では腸の中で水素ガスが流れていることが、1969年に報告されています1)。レビット医師はラクツロースというヒトが分解できない糖を摂ると、腸管中に水素ガスが増加することや、呼吸中のガス濃度と相関することも証明しました。

実はラクツロースだけでなく、難消化性のデンプンなどの糖質を食べると腸内細菌がこれを食べて、水素を作ることがわかっています。また最近、その水素ガスが細胞を活性酸素から守る抗酸化物質であることがわかってきました。

水素ガスの吸入によってラットの脳の血行障害が改善されたり2)。心臓の血行障害を持つラットに水素ガスを吸入させると,心筋梗塞を予防できました3)。また、動脈硬化モデルのマウスに水素水を与えると動脈硬化が抑制されたという報告や4)、腸内細菌がつくる水素ガスが肝臓を炎症から守るという報告があります5)。他にもたくさんこのような研究があり、水素ガスが健康によいということがわかってきたのです。

実はオナラってすごいんです。

悪いオナラは濡れ衣を着せられた良いオナラ

悪いオナラというのは、腸内で腐敗が起こっている時に出るオナラです。私たちの周りでは、発酵と腐敗は本質的に同じで、人間によって都合の良い現象を発酵、悪いのを腐敗と言っています。しかし腸内では決定的に違うことがあります。それは酸性度(pH)なのです。腸内発酵は糖質(炭水化物)をエサにして、善玉菌が「体に良い酸」をつくる現象です。

それに対して腐敗は中性からアルカリ性が好きな悪玉菌が、主にタンパク質をエサに腐敗物質をつくる現象です。その時につくる腐敗物質の量は非常に少量です。

例えば硫化水素という有毒なガスの場合は、臭いとわかるレベル(閾値)が0.2ppm、喉が痛くなったり気管支炎を起こすレベルが50ppmと言われています。500ppmでは非常に危険で避難が必要なレベルです。窪地に溜まった硫化水素が原因で死亡事故が起こることがあります。悪玉菌がつくるガスだけだと、オナラをするとまわりにいる人がみんな死んでしまいます。

その他の臭い物質はみんな閾値が低くてすぐに臭いと感じますが、大部分は窒素や水素などの無害のガスです。つまり良いオナラが腐敗したウンチの間を通る間に臭いをもらってしまったわけです。

よくオナラを我慢したら体に悪いですかという疑問が寄せられますが、基本的には上記のようにオナラの成分は窒素や水素、二酸化炭素などが主体ですので無害です。しかし腸の中の圧力が高まりすぎて憩室(腸の一部が外に膨らむ)ができたり、腸壁の中に嚢胞(のうほう)ができたりすることもありますので、オナラを我慢するのは基本的にはあまり良くありません。問題は腐敗物質ができる環境にあります。その話はまた後ほど。

(参考文献)
1) Levitt, M.D. (1969). N Engl J Med 281, 122-7
2) Ohsawa I, at el.,. (2007) Nat Med.13:688-94
3) Hayashida K,at. el., (2008). Biochem Biophys Res Commun 373, 30-5
4) Ohsawa, I., at. el., (2008). Biochem Biophys Res Commun 377, 1195-8
5) Kajiya M, at. el., (2009) Biochem Biophys Res Commun. 21;386(2):316-21

筆者について

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