腸内細菌がつくる短鎖脂肪酸の働きについて(短鎖脂肪酸⑤)

以前、短鎖脂肪酸のところで書いた「菌のネットワーク」についてもう少し説明しようと思いました。その前に、短鎖脂肪酸について復習です。短鎖脂肪酸は腸内細菌がつくる体に良い酸で、主に酢酸、プロピオン酸、酪酸のことです。酸のリレーのスタートは乳酸で、腸内細菌等が乳酸(図の黄色)をつくりますが、つくられた乳酸は別の菌によってほかの酸につくり変えられていきます。

それぞれの働きを説明すると、

①酢酸(赤)の約15%が大腸の細胞で吸収されて利用され、残りは肝臓と末梢組織に行って、エネルギーや脂肪合成の原料として利用されます。腸の中での殺菌効果も見つかっています。

②プロピオン酸(青)の約50%が大腸の細胞で利用されて、残りは肝臓に行って、エネルギーとして利用されたり、脂肪酸や糖新生(体に必要な糖(グルコース)をつくること)の原料になっています。糖新生が起こると、血糖値が安定するので、糖尿病になりにくいとか、アミノ酸から糖新生しないので、アンモニアができず、肝臓や腎臓に負担をかけにくいという報告もあります。肝臓でコレステロールが作られるのを阻害するなど脂質代謝の改善もします。

③酪酸(緑)のほとんどが大腸のエネルギーとして利用され、大腸の細胞の主なエネルギー源になっています。これがないと大腸は生きていけません。大腸だけでなく小腸や胃などの絨毛細胞の増殖にも影響します。また酪酸は炎症を抑える作用(免疫のバランスを整える)やアポトーシスといって癌化した細胞など異常を起こした細胞を自殺に追い込む働きが報告されています。大腸がんの人や、潰瘍性大腸炎の人は酪酸が少ないという報告もあります。

このように短鎖脂肪酸は細胞のエネルギーとして利用されるだけでなく、強い蠕動運動も起こす大切な酸で、腸内細菌によってしかつくられません。

酢酸・プロピオン酸・酪酸のような短鎖脂肪酸まで行かずに、途中の乳酸やコハク酸(ピンク)で止まると、乳酸やコハク酸は大腸で吸収されないので、腸の中でたまり、それを薄めようと水の吸収も阻害するので、下痢になります。乳酸とコハク酸は強い酸なので、たまりすぎるとpHが下がりすぎて、乳酸やコハク酸を短鎖脂肪酸に変換する菌の働きも悪くなり、ますます短鎖脂肪酸がつくられなくなり、悪循環になってしまいます。乳酸やコハク酸をためないためには、短鎖脂肪酸をつくる腸内細菌のネットワークを上手に働かせることが大切です
続きはこちら→ https://arterio.co.jp/2017/08/04/scfa2/

参考

原:プレバイオティクスから大腸で産生される短鎖脂肪酸の生理効果, 腸内細菌学雑誌, 16, 35-42 (2002).
坂田ら:短鎖脂肪酸の生理活性, 日本油化学学会, 46, 1205-1212 (1997).
近藤ら、プロバイオティクス細菌による血中脂質改善作用 , 腸内細菌学会誌, 24, 281-286 (2010).
プロバイオティクスとバイオジェニクス, 伊藤喜久治 p163 NTS (2007)

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