2020年9月25日腸サイト投稿から移動
子供のころに、肉食動物は草食動物を倒して食べるときに、内臓から食べ、ビタミンを補給すると聞いて、なるほどと思ったことがあります。宿主にとってもビタミンや草食動物が分解した食物繊維等の炭水化物は重要ですが、ここでは、肉食動物の代表としてネコやイヌの腸内細菌にとっても炭水化物が必要なことを書きます。
(1)ヒトの腸内細菌叢
その前にヒトの腸内細菌叢についてですが、ヒトの腸内細菌叢のグループは4つで、ファーミキューテス門(下の図の青)、バクテロイデス門(赤) 、アクチノバクテリア門(黄色)、プロテオバクテリア門(ピンク)です。
下の図は、日本人(367人)の腸内細菌叢の組成の割合を年齢ごとにグラフで表したものです(横軸は1歳から100歳まで)※1。日本人の腸内細菌叢なので、ビフィズス菌(ビフィドバクテリウム属菌)が含まれているアクチノバクテリア門(黄色)が他の国よりも多く占めています。1、2歳と80~100代で、大腸菌など通性嫌気性菌で健康な腸内に少ないプロテオバクテリア門(ピンク)の割合が増えています。1、2歳は、アクチノバクテリア門(黄色)が多いので、腸内は酸性で、プロテオバクテリア門に属するよくない菌が増えないように制御されています。80代以上の高齢者には、アクチノバクテリア門(黄色)が少なく、pHがアルカリに傾いているために、プロテオバクテリア門の占める割合が高く、腸内環境は悪化していると考えられます。1歳までは腸内細菌叢の多様性が低く免疫機能も整っていないので、酸をつくるビフィドバクテリアを増やし、腸内を酸性にして、外から病原菌等が入らないようにしているそうですが、これをみると2歳まではまだ腸内細菌叢の多様性が低いので酸性に保つ必要があるように思われます。
それぞれの門の代表の菌の写真を(7)補足説明に貼りました。
(2)ネコやイヌの腸内細菌叢
ネコとイヌは肉食動物として進化し、高タンパク質の動物の肉を食べ、低グルコースと高タンパク代謝に適応しています。そのためヒトと比較して、ネコやイヌは腸内細菌が生成するエネルギーに依存していないと総説にありましたが※2、他の総説や本によると、結腸での腸内細菌の発酵によるエネルギーが、全体に占める割合は、イヌでは最大7%、ネコではそれより少なく※8、ヒトでは6-9%、モルモット31%、ブタで30-76%と書いてありましたので、ヒトとイヌはあまりかわらないのかもしれません※23。
①ネコの腸内細菌叢
まずネコの腸内細菌叢について示します。下の図※3は、一番左が門で、綱、目、科と続き一番右が主な属やグループが書かれています。私は菌が大好きなので、こういう菌名をみるとワクワクします(笑)。
Ritchieらが(2008)、健康ネコ(4匹)の腸内細菌叢を調べたところ、ファーミキューテス門68%、プロテオバクテリア門14%、バクテロイデス門10%、フソバクテリウム門5%、アクチノバクテリア門4%が占めていました。もう少し細かく見ると、クロストリジウム目54%、ラクトバチルス目14%、バクテロイデス目11%、カンピロバクター目10%、フソバクテリア目6%が占めていて、クロストリジウム目ではクラスターI(ボツリヌス菌、ウェルシュ菌、酪酸菌(クロストリジウムブチリカム(Clostridium butyricum))が含まれているグループ)が58%、クラスター14a(酪酸生成菌が多く含まれているグループ、ヒトの腸内細菌叢に多いグループ)が27%占めていました※4。
(フソバクテリウム門とクラスターIはヒトでは少ないグループで、ネコやイヌのような肉食動物の腸内細菌叢の特徴です→後述)
(クロストリジウムクラスターというのは、16S rDNAの塩基配列に基づき、分子系統的にクラスター分けしたもので、クロストリジウム属菌以外も含まれています。詳しい論文と図※12)
Suchodolskiらが(2015)、健康ネコ(21匹)、急性下痢(21日以下の下痢、19匹)のネコ、慢性下痢(21日以上の下痢、29匹)のネコの腸内細菌叢を調べたところ、(3群とも、体重には有意差はなかったが、健康なネコと慢性下痢のネコの年齢には有意差があった)、下痢のネコの腸内細菌叢の多様性は減少していて、一日の糞をする回数と腸内細菌叢の構成についてのグラフがありました※5。

一番左が1日一回なので健康ネコだと想定すると、ファーミキューテス門(黄色)がほぼ半分を占め、残りがバクテロイデス門(緑)、プロテオバクテリア門(ピンク)、フソバクテリウム門(水色)が占めています。これは、上に書いたRitchieらの研究と割合が異なっていますが、構成する門はほぼ同じです。フソバクテリア門(Fusobacterium属)はヒトでは少ない菌で、ヒトの消化器疾患と関連していますが、健康なネコやイヌに多く、フソバクテリア属菌がイヌやネコの消化管でヒトとは異なる役割を果たしていると考えられています。またフソバクテリア属菌は屋外にいるイヌやほかの肉食動物で多いことや※8、エサにタンパク質の割合を増やすとフソバクテリウム属菌が増えることも報告されていて※19、肉食動物に特徴の菌と考えられます。このフソバクテリア門を除くと、ヒトと構成する腸内細菌叢の門は同じです。
この図をもう少し説明すると、1日の糞をする回数が増えていくとファーミキューテス門が減り、プロテオバクテリア門が増えていっています。プロテオバクテリア門にはカンピロバクターなどグラム陰性菌で通性嫌気性のよくない菌が多いので、これらの菌が原因でプロテオバクテリア門に属する菌が増えて下痢をしているのだと考えられます。1日6回糞をしている下痢のネコでは、ほぼファーミキューテスが占めています。ファーミキューテス門の菌は、短鎖脂肪酸や乳酸を生成するいいグラム陽性菌が含まれていますが、慢性下痢のネコでは、Lactobacillus属菌が増加していたので、乳酸がたまり(乳酸は吸収しにくい酸なので、大量にできると腸内にたまりやすい)、pHが低くなりすぎて、腸内細菌叢のバランスが崩れている可能性があります。下痢や病気と腸内フローラの関係についてはいずれまとめます。
Barryら(2012)が、健康な成猫(4匹)の腸内細菌叢を調べたところ、ファーミキューテス(36–50%)、バクテロイデス(24–36%)、プロテオバクテリア(11–12%)が占めていました※7。腸内細菌菌叢だけでなく、腸内細菌叢の代謝機能も調べたところ、イヌで報告されているものと同様で※9、ネコは肉食動物にもかかわらず、その腸内細菌叢の組成と機能遺伝子は、雑食動物と似ていたことが報告されています。腸内細菌叢の図を下に載せます。紫がファーミキューテス門、深緑がバクテロイデス門です。
②イヌの腸内細菌叢
次にイヌの腸内細菌叢の研究を紹介します。
Garcia-Mazcorroら(2012)が、6匹の飼い犬(年齢、犬種、エサも様々)の腸内細菌叢を調べたところ、ファーミキューテス門(青色、中央値:88%、範囲:75〜98%)、アクチノバクテリア門(えんじ色、中央値:3%、範囲:1〜22%)、プロテオバクテリア門(紫色、中央値:1%、範囲:0〜17%)、バクテロイデス門(緑色、中央値:1%、範囲:0〜7%)、フソバクテリア門(水色、1つまたは両方の時点で3匹のイヌのみが1%未満)、アシドバクテリア門(1つまたは両方の時点で3匹のイヌだけが<0.1%)でした※6。
下の図は、D1-D6はそれぞれイヌ6匹の腸内細菌叢の構成のグラフです。その後の-1と-2は同じイヌで、15日間、期間が開いています。イヌの個体ごとに大体の傾向があり、日によって多少構成比に変化があるのがわかります。腸内細菌叢とエサは関係あるので、下に表を載せました。

D6のエサにはフラクトオリゴ糖などが配合されていたので、アクチノバクテリア門(ビフィドバクテリウム属菌)の割合が非常に多かった?などと考えられますが、詳しい組成は書いてありませんでした。またD1とD2はプロテオバクテリア門の菌が多かったので、おなかを壊している可能性もあります(D2のエサはsensitive stomachでした)。
Swansonら(2011)は、6匹の健康なイヌ(5日以内に生まれた3組の同腹子、メス、1.7歳)に、対照食(低繊維)とビートパルプを配合したエサをクロスオーバーで与えて、腸内細菌叢の構成と含まれている遺伝子の機能を調べました※9。
まず、腸内細菌叢の構成ですが、バクテロイデテス/クロロビグループとファーミキューテス門が約 35%ずつ、プロテオバクテリア門が13-15%、フソバクテリウム門が7-8%占めていました。低繊維の対照群(K9C)ではバクテロイデス、フソバクテリア、プロテオバクテリアの割合が高く、ビートパルプ群(K9BP)はバクテロイデテス/クロロビグループとファーミキューテスの割合が高かったそうです。このことからビートパルプによって多少菌叢が変化したことがわかりました。
ここまでは普通の研究なのですが、この研究者たちは、イヌ(糞)、ヒト(便)、マウス(盲腸内容物)、ニワトリ(盲腸内容物)の菌叢と比較して、ヒートマップを作成しました。それが下の図です。
縦軸は上から、プロテオバクテリア、ファーミキューテス、バクテロイデテス/クロロビグループ、フソバクテリア、アクチノバクテリア、その他と続いていって、
横軸は左から、LMCは痩せたマウス、F1Sは健康なヒト、K9Cは低繊維食のイヌ、K9BPはビートパルプ食のイヌ、HSMは栄養失調のヒト、OMCは肥満マウス、CCAはニワトリです。
この7つを比較すると、左の2つの痩せたマウスと健康なヒトは似ていて、次の2つのイヌ同士も似ていて、次に、栄養失調のヒトと太ったマウスが似ていて、ニワトリの腸内細菌叢の構成とは異なることがわかります。ニワトリは哺乳類でなく鳥類なので、違って当たり前といえば当たり前ですが、この結果からは、ほ乳類(ヒト、イヌ、マウス)の腸内細菌叢を構成する菌叢は似ているかもしれないということがいえます。
さらに、腸内細菌の機能遺伝子の相対的割合もこの7つで比較しています。
これは左の2つのイヌ同士で、次の2つのヒト同士、右の2つのマウス同士でクラスターを形成していて、途中にニワトリが入り込んでいるという、同じ動物同士で、同じクラスターになった当たり前といえば当たり前の結果ですが、色を見ると、機能ごと同じような色(占める割合が同じ)というのが、動物が違っても大体同じというのが驚きでした。
上の方の機能遺伝子は緑が多く、中央が黒っぽくて(あまりない)、下がオレンジ(割と多い)です。赤いところは炭水化物の代謝に関する遺伝子で、この比較した7つの動物(ヒト、イヌ、マウス、ニワトリ)では、炭水化物の代謝に関する腸内細菌の遺伝子の割合が高いということがわかりました。ということはヒト、イヌ、マウス、ニワトリの腸内細菌叢は炭水化物を代謝する遺伝子を多く持っているということです。
この図にはネコが載っていませんが、その後の同じ研究室のBarryらの研究(2012)によると、ネコの腸内細菌叢の機能遺伝子の占める割合は、炭水化物代謝(15%)、タンパク質代謝(8%)ということがわかりました※7。コントロール食のイヌもビートパルプ食のイヌも炭水化物の代謝は約13%、タンパク質代謝は8-9%だったので、イヌとネコでも腸内細菌叢の機能遺伝子の割合も似ていて、肉食のネコでも、イヌ、ヒト、マウス、ニワトリと同様に、腸内細菌叢には、炭水化物を代謝する遺伝子が多いということがわかりました。
③まとめ
イヌは雑食性で、ネコよりも多くの炭水化物を消化、吸収、代謝することができますが、腸内細菌叢の門の構成は肉食のネコ(さらにヒトやマウスとも)と似ています。それぞれの門に属する菌の割合は、イヌやネコの品種、餌、年齢、生活環境、健康状態、実験方法、などによって異なりますが、ファーミキューテス、バクテロイデス、プロテオバクテリア、フソバクテリア、アクチノバクテリアが、イヌおよびネコの腸内の主要な門です※2。さらにまだ比較する検体例が少ないですが、ネコ、イヌ、ヒト、マウスなどの哺乳類では腸内細菌叢の構成は大体同じで、腸内細菌の持っている機能遺伝子の割合はニワトリを含めて大体同じかもしれないということもいえるかもしれません。
(3)腸内細菌叢と短鎖脂肪酸
肉食のネコでも、イヌ、ヒト、マウス、ニワトリと同様に、炭水化物を分解する遺伝子が腸内に多く存在しているということですが、実際に、市販のドライキャットフードを与えた健康な大人のネコ14匹の腸内の短鎖脂肪酸濃度を調べた研究では、胃(20 mmol / L)、十二指腸、空腸、回腸を通して短鎖脂肪酸は増加して(それぞれ、30、29、および41 mmol / L)、結腸の近位部と遠位部では、それぞれ109と131 mmol / L含まれており※10、ヒトの発酵部位である上行結腸にあたる発酵部位がないネコの腸内でも短鎖脂肪酸は作られていて、結腸の遠位部が一番多いことが報告されています。ヒトでは、交通事故か何かで亡くなった人をすぐに解剖して調べたデータがあり、それによると、上行結腸がヒトの発酵部位で総短鎖脂肪酸量は127 mmol/L(pH5.4-5.9)、横行結腸では117 (pH6.2)、下行結腸で90 (pH6.6-6.9)と報告されています※14。イギリスの論文なので、西洋食を食していると考えられますので、日本食の日本人はもう少し短鎖脂肪酸量は多いと思います。この値と、ネコの値を比べると、ほとんど同じなのが驚きです。(腸内細菌叢は食べ物によるので、キャットフードがイギリス人の食事内容と同程度にいいのか?)
また、Barryら(2010)は、肉食のネコ(12匹オス)にペクチン(水溶性食物繊維)を加えたエサを与えたところ、腸内細菌叢は変化して、短鎖脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸)が有意に増加していました※13。このことからも、発酵部位(盲腸)がないにもかかわらず、ネコの腸内細菌叢では、炭水化物を分解する腸内細菌が常在していて、腸内に届いた食物繊維を発酵し、短鎖脂肪酸を生成することがわかりました。
(4) 腸内細菌のエサや短鎖脂肪酸の原料
①細菌のエサについて
肉食のネコでも腸内細菌叢の構成と機能遺伝子は雑食とほぼ同じで、水溶性食物繊維を与えると、腸内細菌叢は変化して、短鎖脂肪酸が増加するということがわかりましたが、そもそも腸内細菌のエサは何なのでしょうか?
腸内細菌のエサになるものは、胃や小腸で消化吸収されない物質です。肉は消化されやすく腸に届かないので腸内細菌のエサになりません。同じタンパク質でも、植物に含まれているタンパク質、大豆プロテインやポテトプロテインは難消化なので腸に届きます。同じく炭水化物もグルコースのような単糖や消化されやすい糖は大腸まで届きません。このことから、消化されにくく腸まで届く難消化性物質の炭水化物とタンパク質が、腸内細菌のエサになります。
以下の図が細菌を培養するときの培地の組成です。タンパク質と炭水化物(糖)とビタミンやミネラルがあれば菌は増殖することができます。左は普通の細菌用の培地です。右は腸内細菌用です。腸内細菌用には腸まで届く難消化性物質が入っている大豆ペプトン(植物のタンパク質は難消化性)とデンプンが含まれています。右の腸内細菌用の培地に、グルコースが含まれていますが、腸内ではグルコースの形で届くことはありませんので、グルコースを資化できない腸内細菌は多くいます。
下の表は、主な腸内細菌の属と、栄養と主な発酵物(短鎖脂肪酸)の表です。上からバクテロイデス属はバクテロイデス門、ビフィドバクテリウム属はアクチノバクテリア門、ルミノコッカス属(今はルミノコッカスとブラウティア属に分かれましたが両方とも)ファーミキューテス門、ユウバクテリウム属もファーミキューテス門、クロストリジウム属もファーミキューテス門に属しています。これらの腸内細菌は、主に腸まで届く難消化性炭水化物を資化して、短鎖脂肪酸を生成しています。逆にいうと難消化性炭水化物が腸に届かないと、腸内細菌は短鎖脂肪酸を生成することはできません。
原文の表も載せておきます。この論文は短鎖脂肪酸の有名な論文です※14。
腸内細菌が腸まで届く難消化性炭水化物をつかって短鎖脂肪酸を生成しますが、一つの菌で、短鎖脂肪酸を生成するわけではなく、様々な腸内細菌が連携して菌のネットワークで、短鎖脂肪酸をつくります。その図を載せました。
それぞれの菌のグループ(B)の詳しい情報は論文の表で載っていますが※15、以下の記事に、代表的な菌の写真と解説を詳しく載せています。
https://arterio.co.jp/2017/08/04/scfa2/
論文の図をわかりやすくした下図のほうで説明すると、一番上の難消化性炭水化物(食物繊維、オリゴ糖、デンプン)とタンパク質から、短鎖脂肪酸生成が始まります。難消化性炭水化物が腸に届かないと、腸内細菌は短鎖脂肪酸を生成することはできないということです。ペット栄養学会誌の総説にも「腸内細菌の重要なエネルギー源は炭水化物である。犬猫用の市販飼料においても、デンプンは重要な炭水化物であり、腸内細菌にとって利用しやすい重要なエネルギー源である。」と書いてあります※16。
このように、腸内細菌の主なエサは腸まで届く難消化性炭水化物とタンパク質で、それを腸内細菌は利用して、多くの菌がかかわりながら、短鎖脂肪酸を生成しています。
②イヌやネコのエサにタンパク質が多く含まれる場合
ヒトでもタンパク質を多く食べると、悪玉菌といわれているウェルシュ菌(Clostridium perfringens)が増えて、腸内細菌叢が悪くなるといわれていますが、イヌでもエサのタンパク質含有量とClostridiaceae科の増加は、正の相関があることがわかっています※20。肉ベースの生食を1年間与えられた犬のグループで、クロストリジウム科、特にウェルシュ菌(Clostridium perfringens)とヒトの潰瘍性大腸炎の原因菌ではないかといわれているFusobacterium varium(フソバクテリウム バリウム)が増えることがわかりました(下の図)※19。その他の肉食動物(ネコ、オオカミなど)でもフソバクテリウム科の菌が多いことも報告されています※11。
(左が自然食(生肉)を与えられたイヌ(6匹)、右がドライフードを与えられたイヌ(5匹)の腸内細菌叢の構成の違いで、左の生肉グループは黄緑のフソバクテリア門が多く、右のドライフードではほとんどなくなったことがわかります。)
では、このたんぱく質が多いエサで増加した菌の特徴を短鎖脂肪酸のうちの酪酸に注目して書きます。
酪酸は、腸の細胞の主なエネルギーで、免疫のバランスも整える宿主にとって非常に重要な物質ですが、腸内細菌の酪酸生成の経路は2種類あります。下の図※17の1aと1bです(赤枠)。
1aは、酪酸キナーゼ経路(butyrate kinase pathway)で、主にクロストリジウム属菌がこの経路で酪酸を作ります。クロストリジウムクラスターIに含まれる有名な菌だと、酪酸菌(Clostridium butyricum クロストリジウムブチリカム)、ウェルシュ菌(Clostridium perfringens)です。
1bは、ブチリル-CoA CoA-トランスフェラーゼ経路(butyryl‐CoA CoA‐transferase pathway)で、クロストリジウムクラスター14aと4に含まれる菌がこの経路で酪酸を生成します。有名なところでは、Eubacterium rectale、Roseburia属菌、Faecalibacterium prausnitzii(フィーカリバクテリウムプラウスニッツィイ)、Eubacterium hallii(名前が変わってAnaerobutyricum hallii)などがあります。ヒトでは、クラスターIに含まれる菌よりも圧倒的にクラスター14aと4に含まれる酪酸生成菌のほうが多いので、ヒトの酪酸生成の主な経路は、1bのブチリル-CoA CoA-トランスフェラーゼ経路になります※17。タンパク質が多いエサで増えたウェルシュ菌とFusobacterium variumは、1aの酪酸キナーゼの経路を持っていて酪酸をつくる酪酸生成菌ということもわかりました。(ウェルシュ菌は悪玉でない!)
Vitalら(2015)が、後腸発酵哺乳類(38種類)、鳥類(8種類)および爬虫類(8種類)の酪酸合成経路遺伝子を調べた結果が下の図です※18。(ブチリル-CoA:アセテートCoA-トランスフェラーゼ(but)および酪酸キナーゼ(buk))
左から、C:肉食動物、中央がO:雑食動物、右がH:草食動物の、腸内細菌の酪酸生成経路の遺伝子の平均遺伝子量の推定値を示しています。青が、ブチリルCoA:アセテートCoAトランスフェラーゼで、赤が酪酸キナーゼです。雑食と草食動物は、青のブチリル-CoA CoA-トランスフェラーゼ経路(上の図の1b)が主な酪酸生成経路で、肉食動物は赤の酪酸キナーゼ経路(上の図の1a)ということがわかりました※18。おもしろいですね~ だからヒトでも肉を食べると悪玉菌といわれているウェルシュ菌が増えるわけで、もしかするとウェルシュ菌は悪玉菌ではなく酪酸を生成するといういいこともしているかもしれません。
このようにタンパク質を代謝する遺伝子よりも、炭水化物を代謝する遺伝子が多く存在しているイヌの腸内細菌叢でも、タンパク質を多く与えると、タンパク質が多いエサに対応して、腸内細菌叢を変え、宿主に必要な酪酸を生成しているわけですが、元々は肉食動物のイヌでもそれが本当にイヌのためになっているのでしょうか?
Xuら(2017)は、イヌにタンパク質が多いエサを与えると、腸内に腐敗物質(アンモニア、フェノール、インドールなど)が有意に増え、血中にはインドキシル硫酸が有意に増加するなど、体に悪影響を与える物質が増加したことを報告しています※21。これらの腐敗物質には臭いにおいがあるので、糞のにおいで腐敗物質の存在や量がある程度わかります。エサのタンパク質含量を増やすと腐敗物質が増加するということと、昔よりもイヌもネコも健康で長生きになったことを考えると、肉食に偏ることなく、各メーカーが販売している難消化性炭水化物や植物由来の難消化性タンパク質がバランスよく配合されているドライフードを与えたほうが、腸内細菌叢が生成する腐敗物質が減り、それがイヌネコの健康につながります。腐敗物質の量は糞のにおいで簡単にわかるので、飼い主もイヌネコの糞の臭いが減るようなエサを、プロバイオティクス、プレバイオティクスを含めて考えたほうがいいと考えられます。
(5)まとめ
ネコは肉食でも、ヒトやイヌとほぼ同じように炭水化物を分解できる能力がある腸内細菌がいる腸内細菌叢と共生していて、小腸で分解されずに大腸に届いた難消化性の炭水化物を資化して、自分達の栄養にして、さらに菌のリレーで、ネコやイヌ(宿主)に必要な短鎖脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸)を生成しています。短鎖脂肪酸は宿主のネコにとって必要な物質なので、肉食のネコでも難消化性炭水化物が必要です。
ネコイヌの腸内細菌は、タンパク質からも宿主に必要な酪酸のような短鎖脂肪酸を生成することができる腸内細菌の割合が多いので、タンパク質が多いエサでも問題ないように思われます。しかしタンパク質が多いエサだと、タンパク質を分解してできる腐敗物質も生成されます。腐敗物質は宿主にとって病気の元になりますので、腐敗物質を生成する腸内細菌が増殖しにくい弱酸性にし、腸内に腐敗物質を生成させないことが、ネコやイヌの健康に有益と考えられます。腸内を弱酸性にするには次の2つの方法があります。①難消化性炭水化物(ビートパルプ)やオリゴ糖(プレバイオティクス)が含まれるエサを与え、腸内細菌に短鎖脂肪酸を作らせる方法と②腸まで生きて届いて乳酸を生成することができる乳酸菌(プロバイオティクス)を与える方法です。
②の腸まで生きて届いて乳酸を生成することができる乳酸菌では、必ず生きている乳酸菌を選んでください。死んでいる乳酸菌は死んでいるので乳酸を生成して、腸内環境を酸性に整えることはできません。Lactobacillus属の乳酸菌は腸に生きて届いても栄養要求が高いので、腸内には増殖できる栄養分は揃っていません。その点、自信作のライラック乳酸菌には独自の有胞子性乳酸菌(lilac-01株)と菌の栄養が腸内に届きますので、もちろんライラック乳酸菌がお勧めです。ライラック乳酸菌を摂取すると、ヒトでは1週間でプラセボ群と比較して有意に臭いが減少しました。ネコやイヌでもすでにお使いのお客様に、臭いが減ることで喜ばれています。
ネコイヌが健康でいられるポイントは、バランスのいいエサや本物のプロバイオティクスによって、腸内環境を弱酸性にし、体に悪い腐敗物質を生成させないことに尽きます。
生きている乳酸菌と死んでいる乳酸菌の違い
https://arterio.co.jp/2020/06/19/lactic-acid-bacteria/
有胞子性乳酸菌の歴史と株などまとめ
https://arterio.co.jp/2020/06/15/spore-forming-lab-1/
ライラック乳酸菌が他の乳酸菌の株と違うところ
https://arterio.co.jp/2020/06/25/spore-forming-lab-2/
短鎖脂肪酸については以下のブログでも一般人向けに簡単に書いています。
https://arterio.co.jp/2016/07/21/diet/
https://arterio.co.jp/2017/08/03/scfa/
ドライフードに含まれている難消化性炭水化物の特徴などについては、
https://cho.arterio.co.jp/dry-foods/ に書いています。
(6)参考文献
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https://sfamjournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/1462-2920.12599
※16日野, 浅沼: イヌ・ネコの腸内細菌と健康, ペット栄養学会誌, 7, 139-152, (2004).
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jpan1998/7/3/7_139/_pdf
※17 Louis P et al. Understanding the effects of diet on bacterial metabolism in the large intestine. Review J Appl Microbiol. 2007;102:1197-1208.
https://sfamjournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/j.1365-2672.2007.03322.x
※18 Vital M et al. Diet is a major factor governing the fecal butyrate-producing community structure across Mammalia, Aves and Reptilia. ISME J. 2015;9:832–843.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4817703/
※19 Kim J et al. Differences in the gut microbiota of dogs (Canis lupus familiaris) fed a natural diet or a commercial feed revealed by the Illumina MiSeq platform. Gut Pathog. 2017;9;68. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5697093/
※20 Bermingham et al. Key bacterial families (Clostridiaceae, Erysipelotrichaceae and Bacteroidaceae) are related to the digestion of protein and energy in dogs. PeerJ. 2017;5:e3019.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5337088/
※21 Jia Xu et al. The response of canine faecal microbiota to increased dietary protein is influenced by body condition. BMC Vet Res. 2017;13:374.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5716228/
※22 光岡 知足:腸内菌の世界, 叢文社, 東京 (1980).
※23 原健次:短鎖脂肪酸の生化学と応用, 幸書房, 東京(2000).
(7)補足説明
左の菌は酢酸を作る菌、右の菌は酪酸を作る菌で有名です。
コハク酸、酢酸をつくります。
大人に多いビフィズス菌です。
通性嫌気性のよくない菌が多い。
肉食動物に多い。