ミトコンドリアを元気にすると生命力が向上する
下の図は、ヒトの皮膚の下にある線維芽細胞のミトコンドリア膜を蛍光染色したものです。よく光っているほどミトコンドリアが元気な(膜電位が強い)ことを示しています。図左(上)は老化した線維芽細胞で、同右が老化した線維芽細胞にライラックEVをかけたもので、細胞の形態が若返って細長くなり、ミトコンドリア電位を示す蛍光色素(赤)の発光の強さや面積が増加しました(右(下))。ライラックEVは細胞膜を通ってミトコンドリアに到達してミトコンドリアの活動電位を強化することが明らかになったのです。
ミトコンドリアの膜電位
次のビデオは、POLARIC™(コスモ・バイオ株式会社)という蛍光色素で染めたライラックEVだけを、ヒト線維芽細胞にをかけたときの3D画像です。この色素は鈴木クロスカップリング法を利用した蛍光ソルバトクロミック色素で、単一励起光で細胞内小器官などの環境の極性(親水/疎水性)によって色が変化します。ミトコンドリアはオレンジ色でモジャモジャした糸状のもの、黄色の粒は小胞体で、ライラックEVもおそらく細胞の外では黄色の蛍光を出します。丸く抜けているところは細胞の核です。この実験でもライラックEVがミトコンドリアに届いていることがわかりました。
ミトコンドリアは、私たち真核生物が誕生するきっかけになった器官で、酸素を使って動物が活動するのに必要なエネルギーのほとんどをつくります。それだけでなく細胞の生死や免疫をつかさどる、いわば命の総司令部ともいえる器官なのです。
そのミトコンドリアは、元は外部の細菌でした。その名残はいろいろなところにあって、細菌の細胞膜にはカルジオリピン(CL)がありますが、動物の細胞ではCLが存在するのはミトコンドリアだけであることもその一つです。ライラック乳酸菌はCLが特別に多い細菌であり、ライラック乳酸菌がつくるEVにもCLが多く、ミトコンドリアを元気にするのも納得がいくわけです。
私たちはライラックEVを線維芽細胞や脳内のミクログリアという細胞などにかけて効果を観察してきました。結果はこの図に示したように、ミトコンドリアの活性が上がって細胞が若返り、細胞の死もコントロールすることができました。
ミトコンドリアは非常にダイナミックな器官で、常に分裂と融合を繰り返しており、細胞内だけでなく近隣の細胞とミトコンドリアの双方向に輸送したり、遠方の細胞とEVを介した交換を行っていることが報告されています(Zonghan Liu, et al, 2022)。細菌が出す膜小胞MVはCLに富んでいるため、ミトコンドリアの膜成分として取りこまれるのであろうと考えられます。それはミトコンドリアと共通の言葉を持っている細菌の強みかもしれません。
このようにミトコンドリアと交流のあるライラックEVの研究によって、これまでわからなかった様々な不調の原因が明らかになってきたのです。
戦いの場は全身にある
マクロファージは全身にいて、外から入ってくる病原体(PAMP)や体内のダメージ(DAMP)と戦っています。そもそも生命を生命たらしめているものは何かというと、それは細胞膜だと思うのです。細胞膜がなければルカ(LUCA)から進化して、外の世界に飛び出ることはできなかったはずです。
多細胞生物に進化して、さらに大型化すると、外敵との戦いは生物の外側の細胞が主に担うことになります。それは上皮細胞や内皮細胞であり、皮膚や消化管、肺胞、血管、腎臓、肝臓などに多くのマクロファージが配置されているのもそのためです。そこではPAMPやDAMPとの戦いが日夜行われています。
このシリーズの(2)で、「マクロファージの自爆の原因は、鈍感力がないため」と書きましたが、この鈍感力は実はミトコンドリアの活性の高さなのです。ミトコンドリアの活性が高いと少々のDAMPであっても、マクロファージを自爆させなくても済みます。ミトコンドリアは細菌と共通言語を持つという意味は、ミトコンドリアの細胞膜には細菌由来のカルジオリピンが多いことを示しています。 私たちを苦しめいている様々な病気は、実は私たち自身が招いている可能性があります。鈍感力を養うためには、細菌との接し方を見直すことが重要なのです。