細胞外小胞EVが健康に革命を起こす (2)

前回は、脳細胞(ミクログリア)の自爆死について解説しました。脳細胞が自爆するなんて聞いたこともないし、信じられないと思うかもしれませんね。実は平さんの実験を見るまでは、私も信じていませんでした。でも、ミクログリアのパイロトーシス(自爆死)はありま~す(このフレーズ、どっかで聞いたような…)。

今回は、脳細胞の自爆死(パイロトーシス)とは、どういうことか、どういう影響があるのかを解説します。

マクロファージの自爆を抑えると「痛み」が消える

皆さんは、「痛み」とは何だと思いますか。痛みとは組織が損傷したときに知らせてくれる大事な仕組みで、痛みがあることで組織の損傷に気づかずに命の危険にさらされる事態を回避することができます。しかしそのような必要な痛みではなく、必要がないと思われる慢性的な痛みもあります。このような痛みは原因不明であり、長く続く痛みを解消することがいかに難しいかということを多くの方が経験しているのではないでしょうか。

このような慢性的な痛みは、神経の痛みであったり、損傷や炎症による痛みなど様々な説明がされていますが、本当の原因はよくわかっていません。しかしEVを服用していると、「痛み」が消えるという現象を多くの人が経験するようになりました。

つまりマクロファージの自爆死(パイロトーシス)を防止すると、「痛み」が消えるのです。この現象は次に示す「風が吹けば、桶屋が儲かる」のような、長い反応の連鎖が関係していると考えています。

図1 炎症の連鎖反応

マクロファージの自爆死(パイロトーシス)がおこると、IL-1βという炎症物質(サイトカイン)が放出されます。それを受けとった別のマクロファージや他の免疫細胞が、今度はTNFαというサイトカインを放出します。このTNFαを受けとったマクロファージやマスト細胞がさらに多くの炎症物質を放出します。このようにいったん始まった炎症は、次々と続いていきます。痛み物質として知られているヒスタミンやプロスタグランジンができるまでに、その原因となる多くの過程があるとこうことです。最初の「風が吹けば」にあたるのが、マクロファージの自爆死だと考えられます。

このように炎症をマクロファージの死から俯瞰するような研究はこれまでありませんでした。私たちは、炎症はこの図のようにマクロファージの自爆死が連鎖反応のように拡大しながら進行していくと考えました。

解熱鎮痛剤や抗炎症薬は副作用が問題

EVで多くの方が「痛み」が消える、あるいは軽くなる体験をしています。このような慢性的な痛みには、腰痛や関節痛、頭痛、腹痛、歯痛、生理痛、筋肉痛など、さまざまな部位での痛みがあります。また帯状疱疹に伴う痛みや関節リウマチ、線維筋痛症のようにストレスや天候などに左右される痛みもあります。

これらの痛みの対策は、もっぱら解熱鎮痛剤が頼りです。解熱鎮痛剤には様々なタイプがありますが、一般にこれらには副作用があり、多用するとミトコンドリの機能障害を起こす可能性があります。

具体的にはアセトアミノフェンは肝臓、心臓、脳など、さまざまな臓器で機能不全を引き起こすことが観察されています。また非ステロイド性抗炎症剤(NSAIDs)も同様に心筋細胞、肝細胞、内皮細胞、上皮細胞などさまざまな種類の細胞で細胞死を引き起こすことが示されていますし、ミトコンドリア呼吸と、心臓細胞、肝細胞、および脳細胞でのATP産生を損なうことがわかっています。

またモルヒネなどのオピオイドは脳への痛み信号の伝達を低下させますが、認知機能の低下や判断力の低下、錯乱とせん妄、めまいや立ちくらみ、頭痛、かゆみや発汗などの副作用を生じることがあります。

抗炎症薬にも副作用はつきものです。ステロイド、つまりコルチコステロイドは最も一般的な抗炎症薬ですが、ステロイドを高用量あるいは長期間使用するとアレルギーや自己免疫疾患が発症することがあります。

マクロファージの自爆の原因は、鈍感力がないため

よく「免疫力」という言葉を使いますね。免疫の力とは何を指すのでしょうか。病原体やがんなどに対抗する力という意味では、炎症を起こしてそれらを攻撃する能力と考えられます。しかし「免疫力」を上げ過ぎるとささいなことに反応して炎症が起こってしまいます。

炎症は、マクロファージなどの自然免疫の細胞が現場にかけつけて、炎症物質を出すことから始まります。実は痛みも炎症の作用の一部と考えられます。図1で示したIL-1βやTNFαなどが最初に放出される炎症物質です。

炎症の目的は侵入してきた病原体などを攻撃することです。この攻撃がおさまると、今度は抗炎症性物質を出して壊れた組織の修復にあたります。マクロファージはその両方の主役で、自爆死によって炎症物質を出し、自爆死がおさまると抗炎症性物質が働きだすと考えられます。

ところでマクロファージは病原体が侵入したことをどうやって知るのでしょうか。1990年代の半ばにホフマンらのグループがトール様受容体(TLR)というものを発見して、免疫細胞が病原体を認識するナゾを解き明かしました。トールというのはショウジョウバエのTollと呼ばれる遺伝子のことで、細菌の一部の分子のパターンを認識して炎症を開始させる役割をします。TLRは様々なタイプがあることもわかってきて、自然免疫の理解が飛躍的に進みました。現在ではTLR以外にも様々なパターン認識受容体があることがわかってきました。

つまりマクロファージは病原体の分子のパターンを感じるセンサーを持っていて、病原体などが体内に侵入すると、それを感じて炎症を開始することができるわけです。私たちの実験では、マクロファージはこのセンサーで、大腸菌由来EVについているLPSの刺激を感じて自爆死したのでした。LPSというのは細菌の膜についている毒素です。

慢性炎症がおこるのは病原体が侵入したときばかりではありませんね。花粉症や食物アレルギーなど、近年問題となっている炎症性疾患は、みな慢性炎症が原因でおこります。でも少し考えると変ですよね。マクロファージは病原体の侵入を検知するパターン認識受容体を持っていますが、これらの病気には病原体はありません。

花粉症や食物アレルギーでは、花粉や食物は病原体ではありませんが、病原体と同じように非自己として反応しているようなのです。つまり感度が高すぎて本来なら反応すべきではないものに反応しているのです。このような状態がアレルギーです。それに対して反応すべきものに反応しないことをアナジーといいます。私はこれを鈍感力と言っています。全く反応しないと危険で生きていけませんが、適度に鈍感力を持つことは大切であり、刺激の多い社会を生きていくためには重要な能力です。 ミトコンドリアは細菌と共通言語を持つというお話をしましたが、細菌の言葉がわからなくなると、唯我独尊におちいって周囲の世界から浮いてしまうのではないでしょうか。アメリカのアーミッシュと呼ばれる人々にアレルギーが少ないのは、小さいころから家畜とともに育ち、微生物を摂取する機会が多いことによるといわれています。ただ単に不衛生であればよいのかというとそうではなく、幼児期にさまざまな微生物に触れて、皮膚や気道、腸管の常在細菌叢が多様になることが重要だとされています。これは衛生仮説とよばれ、外の世界と交流を持つことが免疫の世界でも重要であることを示しています。

筆者について

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