細胞外小胞EVが健康に革命を起こす (1)

久しぶりの投稿ですが、大変重要なお知らせがあります。乳酸菌の最新研究リラ子のブログでもご紹介してきたように、私たちは乳酸菌が出す細胞外小胞(EV)について研究を進めてきました。EVとは電気自動車ではなく、国際細胞外小胞学会(2012年設立)が推奨している動植物の細胞が出すエクソソームや、細菌の細胞が出す膜小胞(MV)の総称です。国際学会ができてまだ10年ほどしかたっておらず、研究者の中でも知らない人も多いのですが、電気自動車以上に社会にインパクトを与えるのではないかと、(一部で)思われている注目の存在なのです。

当社では、このEVの研究用試薬を世界に先駆けて2020年より販売してきましたが(コスモ・バイオ株式会社)、このたびペット用、続いて人用のサプリメントを販売することになりました。

エクソソームが先行する研究開発

いまから15年ほど前から「エクソソーム」と呼ばれる小さな泡が一躍注目されるようになりました。テレビなどでも取り上げられて話題になっていますのでご存じの方もいらっしゃると思います。エクソソームとは動植物の細胞が外に放出する小胞です。エクソソームの大きさは0.1μmくらいで、人の細胞の大きさ10~20μmのおおよそ100~200分の1程度、ちょうどウイルスくらいの大きさです(図1)。

図1 エクソソーム(EV)の構造

この小さなエクソソームはいま大きな注目を集めています。そのきっかけは、エクソソームの中にmiRNA(マイクロRNA)やmRNA(メッセンジャーRNA)が入っていて、エクソソームがそれらを全身に運んでいることが2007年にわかったことです。mRNAはコロナワクチンですっかり有名になりましが、miRNAはまだ知名度は高くないかもしれません。それまではエクソソームは体の中のゴミを運んでいるだけと考えられていましたが、この年を境にエクソソームの研究は急激に発展していきます。

miRNAは広く生物界に広まっているごく小さな遺伝子のかけらで、エクソソームの研究で最も人気なのが、このmiRNAなのです。miRNAは、遺伝子のタンパク質の情報を伝達するmRNAにくっついて、タンパク質に翻訳されるのを妨害します。例えば侵入したウイルスのRNAの活動を妨害して、増殖を抑えたりします。つまりmiRNAは、いろいろな生物の活動において遺伝子の翻訳を調節することができ、さまざまな病気の新しい治療法を開発するための強力なツールとして期待されているわけです。

エクソソーム中のmRNAも同じように期待されています。mRNAの場合はタンパク質をつくることができます。つまりmiRNAが遺伝子の翻訳を負に制御するのに対して、mRNAにはタンパク質の作用を促進する効果があります。エクソソームは医療に革命を起こすといわれていて、研究者の間で非常に注目される存在なのです。

世界初の乳酸菌EVが誕生

乳酸菌などの細菌が出す小胞は、膜小胞(Membrane Vesicle、MV)といいます。2012年に国際細胞外小胞学会(ISEV)が設立されて、総称として「細胞外小胞(EV)」が提唱されました。EVという名称が使われるようになってまだ10年程度しかたっていないので、研究者でもEVという言葉を使いたがらない人もいます。

エクソソームの方は一足先に研究が始まっているので、ある程度知られるようになりましたが、膜小胞MVの方は、おそらくほとんどの方がご存じないと思います。私たちがEVの研究を始めたのは2020年の初めころで、2020年11月には世界に先駆けて乳酸菌由来細胞外小胞(EV)がコスモ・バイオ株式会社から販売されました。それがライラック乳酸菌(Bacillus coagulans lilac-01)由来EV(以降はライラEVといいます)です。0.2㎖で5万円ととても高価な商品ですが、これが研究用にけっこう売れています。膜小胞の中でもライラEVはエクソソーム以上の能力と実用性を兼ね備えた優れた素材なのですが、知名度ではエクソソームに全くかないません。

私たちはEVの研究を始めるのに際してとった戦略は、多くの研究者が注目しているEVの中身ではなく、あまり注目されていなかった外側、つまり膜の方を徹底的に調べることでした。私たちのライラック乳酸菌の菌体の膜成分は、なんとミトコンドリアの膜成分に近かったのです。ミトコンドリアといえば、太古の昔に我々真核生物の誕生に際して、細菌を取り込んでエネルギーをつくる器官に進化したものです。菌体と同じようにライラEVにもその成分が多いはずです。調べてみると実際にその通りでした。研究に関わっている全員の気持ちが一気に高まってきました。

Easy-Peasy.AIで生成したEVのイメージ

想像を超えるライラック乳酸菌の秘密

私たちは、ライラEVの開発に先立って、ライラック乳酸菌の開発を完成させていました。ライラック乳酸菌はBacillus coagulansという菌種で、北海道旭川市にある私の自宅の庭に生えていたライラックの花から採りました。独自株(lilac-01)であることを確認して特許寄託しました(特許5006986)。

通常、乳酸菌などの培養では、透明培地(菌の栄養)を使って培養し、菌体を分離して糖などで保護して真空凍結乾燥などの方法で粉末にします。しかし私たちは最初からこの方法ではなく、別の方法を採用しました。それは「オカラ」を使った乾燥法です。しかも菌体だけでなく、培養液も含めて丸ごと乾燥する方法です。そのため培養液は大豆を使った、食品だけを用いた培養法を開発しました。考え方としてはヨーグルトに近いものですが、ライラック乳酸菌とヨーグルトの違いは大きくな点で3つあります。一つは菌種。ヨーグルトの菌は酸素や胃酸に弱いので、生きて大腸に届くことはまれです。また高温や乾燥にも弱いので加熱乾燥するとほとんどが死んでしまいます。二つ目は乳製品ではなく大豆発酵物であるということ。このことはいろいろな意味で重要なポイントとなります。三つ目はライラック乳酸菌がオカラの粉に固着させた乾燥物であるということです。これによって生きた菌体が大腸の奥まで届き、乳酸菌の発芽率が高く、腸内で短鎖脂肪酸が増えるなど、その他多くの点でメリットがあります。

いろいろな工夫をして開発したライラック乳酸菌ですので、効果が高いことについては自負しているのですが、我々自身の体験やお客様の声の中に予想を超える不思議な効果があることがわかってきました。そうなるとそのメカニズムを知りたいということになりますね。

ライラックEVは脳細胞の自爆死を防いだ

コスモ・バイオ株式会社の研究員だった平敏夫さんとの共同研究は、ライラEVが炎症を抑えるメカニズムを解き明かすきっかけになりました。図2はラット(ネズミ)のミクログリアという細胞に、大腸菌由来EVをかけたときの顕微鏡写真です。ミクログリアは脳細胞のうち10〜15%を占めています。ミクログリアは脳内のマクロファージといわれていて、脳内の異物や老廃物を食べて除去したり、脳内の免疫を司る重要な役割を担っています。ちなみに脳内のニューロン(神経細胞)は脳細胞の約2割を占めるだけで、残りの約8割はグリア細胞といわれる細胞が占めています。ミクログリアもグリア細胞の一員です。

ミクログリアに限らず、細胞の実験では、たいてい「株化」と言って死なない細胞(つまりガン化した細胞)にしたものを使いますが、プライマリー(初代)の細胞を使うと「細胞死」を観察することができます。この実験方法を考えたのが平さんです。

ECEV pyroptosis

図2 初代ミクログリアに大腸菌EVをかけたときの生細胞の変化(動画)

ミクログリアは通常、突起を伸ばして病原体などをさがして、異常があると丸くなります。ミクログリアの初代細胞を容器に入れると丸い形になり、容器の接触刺激を感じてパンパンと破裂して死んでいきます。このような死に方を「パイロトーシス(pyroptois、真ん中のpは発音しません、またはピロトーシス)」といいます。パイロトーシスを起こした細胞は、中身をまき散らして周囲の細胞に炎症を起こします。大腸菌EVをかけたミクログリアは、パンパンと破裂してほとんどの細胞が死んでいきます(図2)。

このような自爆死(パイロトーシス)が実際に脳の中でおこっているわけです。恐ろしいですね。ミクログリアという免疫細胞は、いろいろな刺激を感じて自爆死を起こします。ミクログリアは神経細胞(ニューロン)のすぐ脇にいますので、その影響がニューロンに及ばないはずがありません。自爆テロに巻き込まれたようなものです。実はこの自爆死は炎症の始まりなのです。

ミクログリアはマクロファージの仲間ですが、マクロファージやミクログリアにはM1型とM2型の2種類があると信じられています。いまはその考えが主流となっていますが、一部ではおかしいのではないかという意見もあります。私たちもM1、M2説を信じていました。しかし平さんの実験を知った時から、考えが変わりました。つまり炎症はマクロファージ(ミクログリア)の自爆から始まるのだと。この問題は炎症とは何かを再考させられます。

ミクログリアは脳内のマクロファージといいましたが、マクロファージという細胞は全身にいて、同じように自爆死をして炎症を起こします。脳細胞や心臓の細胞は新しく生まれにくいので、この自爆死の影響が特に大きいと言えるのです。

図2の実験では、ミクログリアに大腸菌のEVをかけましたが、今度は先にライラEVをかけた後、大腸菌由来EVをかけてみました。その結果は、ミクログリアは破裂しなくなったのです。つまりライラEVが大腸菌由来EVの影響を予防できたことになります。

図3は初代ミクログリアにいろいろなEVやアミロイドβをかけたときの細胞の変化です。何もかけないミクログリアでも自爆死をおこして少しずつ容器からはがれていきますが、大腸菌EVをかけるとどんどん自爆死をおこしていきます。しかしライラックEVをかけたものはまったく自爆死をおこさず、容器についたままであり、しかもアミロイドβを取り込む量も多くなりました。

図3 初代ミクログリアに各種EVとアミロイドβをかけたときの生細胞の変化
(青:細胞の核、赤:アミロイドβを取り込んだ細胞)

このようにミクログリア(マクロファージ)の自爆死をコントロールすることは、これまではできませんでした。次回はこの発見がどのようなことに発展するかをご説明したいと思います。

EasyPeasy.AIが描いたEVのイメージ

筆者について

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