年齢を重ねるにしたがって体のあちこちにガタが来るのは致し方ない問題です。便秘もそのうちの一つかもしれませんが、下痢になる人もいますので一概に便秘になりやすいとも言えません。

一般には筋力が衰えて腹圧をかけられなくなるとか、自律神経の働きが年齢とともに低下するとか、いろいろなことが言われますが、これらの多くは単なる推量に過ぎず、実際にそれで問題が解決するわけではありません。

排便するときにりきむ(いきむ)必要があると思っている方は多いでしょうが、実際に排便するのは腸の蠕動運動で腹筋ではありません。

力まずに排便することができれば、血圧も上がらず健康に良いはずです。タイミングを合わせるとそれが簡単にできるようになります。

便が直腸に出てくると直腸から指令が出て下行結腸からS状結腸にかけて大きな連動する蠕動運動が起こります。これを利用するのです。

こつは起床後すぐにトイレに立つのではなく、少し時間がたって腸が動き出すタイミングでトイレに行くことです。これでスッキリと排便することができます。

また忙しくて便意を我慢して排便のタイミングを逃してしまうと次になかなか便意が来ないことがあります。

腸とじょうずに対話をして、良い生活習慣を身につけましょう。

ちなみに腸の蠕動運動を司る腸管神経は自律神経ができる前からある神経で、腸管神経だけで腸を動かすことができます。

自律神経は後で腸管神経に割って入って、例えば突然、捕食者に出会ったときなどの危機一髪の時に、自分の身代わりに下痢便を残して逃走するなど、ストレスを受けたときに介入するようになったのです。

腹筋を鍛えたり、自律神経を整える体操をすることも悪くはないでしょうが、便秘が治るかというと???です。

年齢とともに変わってくるものに、胆汁の分泌量があります。胆汁は十二指腸に分泌されて小腸のおわりで回収されますが、一部が大腸に流れていきます。胆汁に含まれる胆汁酸は腸内細菌にダメージを与えますので、下痢になりやすいのです。高齢者では胆汁の分泌量が少なくなりますので、その分便秘になりやすいといえます。

胆汁の分泌が減るということは若いときのように脂っこいものをたくさん食べることができません。そのため食が細くなって、排便量が減ってしまうということも考えられます。

腸内細菌でも変化があります。ビフィズス菌が減ってきますが、もともとビフィズス菌が全くいない人も元気に生活していますので、これは気にすることはありません。

年齢とは関係ありませんが、抗生物質を多用すると腸内にクロストリジウム・デフィシルという菌が増えてきます。日本ではまだあまり問題になっていませんが、米国では年間約3万人が死亡すると報告されています。

C.デフィシル感染症については糞便移植が有効といわれています。他人の便を移植するわけです。バイオの研究者としてはそんなことをしなくても普段から腸内を弱酸性に保っていれば、この感染症にはならないのではないかと思います。

ここで大事なキーワードが出ました。「弱酸性」です。腸内を弱酸性に保って短鎖脂肪酸をたくさんつくれる腸内環境を保っていれば、腸が痩せて便秘になることもなく、蠕動運動も活発になり、病気にもかかりにくくなります。

高齢になったからといってやることが変わるわけではありません。若い人と腸内フローラの成り立ちはほぼ同じなのです。