細胞外小胞(EV)が、
生きるしくみをサポート

地球上に最初に現れた生物
地球上に最初に現れた生物はLUCA(Last Universal Common Ancestor:すべての生物の共通の祖先)と呼ばれ、当時の酸素のない地球で暮らす嫌気性の生物でした。
ところが光合成によって酸素をつくるシアノバクテリアが現れ、地球上に酸素が増えていきました。
その後、酸素を使ってエネルギーをつくる好気性細菌が現れました。酸素は酸化力が強いために、当時の生物にとっては毒のような存在で、命を脅かすものでした。
私たちの祖先は、この好気性細菌を取り込んで共生することによって、存亡の危機を乗り越えることができました。
共生した好気性細菌はミトコンドリアになり、私たちの祖先は真核生物として大きく進化しました。
この細菌には、カルジオリピンという特別な脂質の膜が使われていました。カルジオリピンはエネルギーをつくるうえで欠かせない役割を果たします。
私たちの祖先は、エネルギーをつくったり、病気の侵入を防いだりするために、次第にミトコンドリアに依存するようになりました。その結果、カルジオリピンは常に酷使され、消耗することが多くなりました。
その後の時代に登場した細菌のひとつが「バチルス・コアグランス」です。カルジオリピンをたくさん持っており、芽胞をつくる強い生命力を持った乳酸菌です。バチルス・コアグランスは耐久性が高くて健康に役立つので、「プロバイオティクスの王様」と呼ばれました。
バチルス・コアグランスはEV(細胞外小胞)という小さな粒をたくさん放出します。
EVは細胞同士のメッセージカプセルのようなもので、カルジオリピンがそこに含まれています。このEVを受け取った細胞は、ミトコンドリアが元気になります。
元気になったミトコンドリアのおかげで、生命は元気に暮らせるようになりました。
いまでもバチルス・コアグランスのEVが細胞を元気にするのは、このような進化の賜物なのです。
私たちはライラック乳酸菌由来のEV(Lilac01-EV)を開発し、特許登録しました。
(乳酸菌EVについてはこちらをご覧ください)

腸から脳にEVが運ばれるしくみ

腸と脳の関係はどっちが先?
腸と脳の関係は、かつては「脳から腸への一方通行」と考えられていました。しかし近年の研究で、むしろ腸から脳に多くのメッセージが送られていることが明らかになっています。
このルートは「スーパーハイウェイ」と呼ばれ、腸で起こった出来事が小さなカプセル=細胞外小胞に乗って、神経や血流を通じて脳に素早く伝えられます。
この小胞を細胞内で運ぶのが「キネシン」と「ダイニン」という分子モーターです。微小管というレールの上を、人のように“二本足で綱渡り”しながら小胞を運ぶ様子は、NHKでも紹介され大きな話題となりました。
私たちが研究しているのは、この「細胞外小胞(EV)」の中でも腸内細菌がつくるEVです。
腸内細菌由来のEVは腸管神経系を通り、迷走神経を経由して脳に届くことが報告されています。
パーキンソン病ではこの経路を通じてαシヌクレインが脳に入ることが確認されており、アルツハイマー病でも腸で作られたアミロイドβが脳へ運ばれて、影響を及ぼす可能性が研究されています。
(乳酸菌EVについてはこちらをご覧ください)

 

次の写真は、私たちの実験結果です。ラットの脳の免疫細胞であるミクログリアに、左は大腸菌由来のEVを加えたもの、右はLilac01-EVを加えたものです。青い点は細胞核、赤い点は同時に加えたアミロイドβです。
 
大腸菌EVを加えると、ほとんどが破裂するように死んでしまいました。これは大腸菌EVに含まれる成分(LPS=内毒素)が引き金となり、炎症性の細胞死(パイロトーシス)を起こすためと考えられます。
一方で、Lilac01-EVを加えた細胞は死ぬことなく、むしろアミロイドβを元気に取り込んで処理しようとしていました。
ミクログリアは脳の掃除屋で、老廃物を取り除く役割を担います。

腸内環境が悪化すると、大腸菌EVのような炎症性の小胞が体内を移動し、迷走神経の“逆行きのレール(逆行性輸送)”で脳へ運ばれる可能性が指摘されています※。脳の健康のためにも、腸内環境を整えることが大切です。
※動物実験や細胞実験に基づく知見であり、ヒトでの確定的な証明には追加研究が必要です。

若さの秘訣は、線維芽細胞に

線維芽細胞は大忙し
線維芽細胞は、体の組織をつなぎ、傷ついた部分を修復する細胞です。コラーゲンなどを作って皮膚のハリや臓器の構造を支え、まさに「体の修理屋さん」といえます。若々しい見た目や機能は、この細胞の働きに支えられているのです。
しかし、線維芽細胞はデリケートな存在でもあります。働きすぎると「線維化」という現象を引き起こします。線維化とは組織が硬くなり、本来の機能を失ってしまう状態です。
この仕組みには進化的な理由があります。例えば寄生虫のような大きな侵入者を排除できない場合、線維化によってその場に閉じ込め、全身への被害を防ぐ戦略が発達しました。つまり線維化は、本来は「緊急時の応急処置」でもあるのです。
また、傷の修復過程でも同じような仕組みが働きます。まず炎症を起こすマクロファージ(M1)が出動し、続いて瘢痕を作るマクロファージ(M2a)が現れます。そして最終的には、瘢痕を溶かして本来の組織に近い状態へと導くマクロファージ(M2c)が働きます。ここで線維芽細胞がM2cと協調できるかどうかが、若々しい組織を保つカギになります。
老化した線維芽細胞は丸くなり、活動が低下し、M2aに偏りやすくなります。その結果、線維化や慢性炎症につながります。一方で、元気な線維芽細胞はM2cとともに働き、しなやかな組織を維持できます。
この違いを生み出しているのが「ミトコンドリア」です。Lilac01-EVはミトコンドリアと共通のカルジオリピンを持っており、ミトコンドリアの活動を引き出すことができます。
左の写真はオレンジ色に染色したLilac01-EVを、線維芽細胞にかけてから2時間後に、容器底から上2.5μmの細胞の中に焦点を合わせて撮った写真です。ミトコンドリアにオレンジ色のEVが集まっている様子を見ることができます。
下の写真は老化させた線維芽細胞(左)と、それにLilac01-EVを加えた細胞(右)です。赤く光っている部分がミトコンドリアで、右側ではその面積が1.9倍、細胞数も約2.4倍に増加しています。つまり、Lilac01-EVがミトコンドリアを元気にして、線維芽細胞の若さ、ひいては体全体の若さをサポートすることを示しています。
 
これらの研究結果は「基礎研究の成果」であり、製品の効能効果を示すものではありません。

次世代の健康素材
 カルジオリピンを豊富に含むEV

CLリッチEVとは?
CLはカルジオリピン、EVは細胞外小胞 ( Extracellular Vesicle ) の略称です。つまりカルジオリピンを多く含むEVです。
CLはミトコンドリアの内膜に1~5%程度存在し、エネルギー産生や免疫応答を担う重要なリン脂質です。
(乳酸菌EVについてはこちらをご覧ください)
CLにはミトコンドリア内に発生する活性酸素(ROS)を吸収して外部にミトコンドリア小胞(MDV)として持ちだす役割があります。MDVによってミトコンドリアは正常に保たれ、エネルギーをつくり続けることができます。
しかし加齢や炎症によってMDVが増加すると、CLが枯渇し、エネルギー産生に支障をきたすことになります。
私たちの体には、腸内細菌が放出するEVやMDVが絶えず巡っており、それが全身の細胞に取り込まれています。また呼吸や食べ物を通じても、外部からさまざまなEVが入ってくると考えられます。
ところが、腸内環境が乱れたり、質の悪いEVが取り込まれると、ミトコンドリアからは大量のMDVが放出され、カルジオリピンの消耗がさらに加速してしまいます。
そのようなときには、外部から新鮮なカルジオリピンを含むEVを補給することが大切です。自然界でも、異なる生物が互いのEVを取り入れて補い合う仕組みが存在しており、私たちの体もまたその影響を受けていると考えられます。
ミトコンドリアは、もともとは体内に共生した細菌でした。しかし現代社会では、消毒剤や農薬が日常的に使われ、さらに私たち自身も抗生物質に頼る場面が増えています。こうした「便利さの代償」が、実は私たちの細胞に潜むミトコンドリアを傷つけているのです。
その結果、ミトコンドリアを守るはずのカルジオリピンが消耗し、エネルギー産生の低下や慢性的な炎症など、さまざまな不調や病気につながります。
そこで登場するのが CLリッチEV です。これはミトコンドリアに直接カルジオリピンを届け、失われた活力を取り戻すために開発された、新しいバイオ素材なのです。

進行中のプロジェクト

令和6年度より 成長型中小企業等研究開発支援事業(Go-Tech事業)
令和6年度から3年間の予定で、成長型中小企業等研究開発支援事業(Go-Tech事業、経済産業省)を実施中です。
 
研究開発計画名:乳酸菌由来細胞外小胞(EV)を用いた革新的機能性食品、化粧品原料の開発
 
この研究プロジェクトは、ライラック乳酸菌がつくる細胞外小胞(Lilac01-EV)の機能性評価(ヒト介入試験)を実施して、機能性表示食品への届出を行うことが一つの目的であり、もう一つはLilac01-EVの精製技術を確立して、化粧品等に適用することです。
(乳酸菌EVについてはこちらをご覧ください)