微生物の専門家が書いた有胞子性乳酸菌についてのまとめ①(歴史と株について)

 リラ子は微生物や腸内細菌の専門家だけではなく、菌とり名人です。今まで、他の人が単離できなかった菌を何種類か単離しています。その中には、新属提案して名前を付けた菌もあります*1。さらに、有胞子性乳酸菌をライラックの花から単離して研究したので、日本でただ一人の有胞子性乳酸菌の専門家だということにも気が付きました。なぜなら、他の株を単離された中山先生はもうなくなられているからです(^^) ということで、ライラック乳酸菌も含まれている有胞子性乳酸菌について簡単にまとめることにしました。

(1)有胞子性乳酸菌とは

 有胞子性乳酸菌の学名は、Bacillus coagulansです。バチルス属なので、芽胞を作ります。芽胞をつくるので、乳酸菌なのに、熱に強く、酸にも強い(食べた菌が胃酸でも死なずに腸までほぼ100%届く)、酸素に強い(酸素に弱いビフィズス菌と違って、その辺に置いておいても死なないので保存性がいい)、乾燥に強い(その辺に置いていても死なない理由の一つ)、小腸に多い胆汁酸でも死なないなど、とても強い菌です。さらに同じバチルス属の納豆菌と異なり、酸素のない腸内では、エネルギーを作る方法を変えて乳酸発酵できる通性嫌気性菌です。納豆菌(丈夫)と乳酸菌(乳酸を作る)の両方のいいところをもっている乳酸菌なのです。少ない摂取量でも、生きて腸まで届いて、生きているから腸で乳酸をつくって、腸内環境を整えている理由は芽胞をつくる通性嫌気性菌の乳酸菌だからです。

(2)有胞子性乳酸菌の歴史:

 こんなすごい有胞子性乳酸菌は、1915年に、エバミルクの缶詰から単離されました。熱に強い芽胞を作って、酸素のない状態でも乳酸発酵をして生きているので、加熱殺菌が十分でない缶詰に残っていました。(こちらに詳しく書いてます)https://arterio.co.jp/2016/02/17/lila-chan/

 日本で単離されて販売されている有胞子性乳酸菌は2株しかありません。①ラクボン株(ラクリス、SANK70258)(第一三共ヘルスケア、三菱ケミカルフーズ)、そして、リラ子が単離した②ライラック乳酸菌 lilac-01株(アテリオ・バイオ)です。普通の乳酸菌やビフィズス菌はたくさん種も株もあるのに、有胞子性乳酸菌は種は1種類で、バチルス コアグランス(Bacillus coagulans)だけです。(実はもう一種類あるのですが、それはバチルス属でないので熱にも酸にも弱く、製品化されていません)

 なぜか? それは単離が難しい?(そんなことはなかったのですが)、たぶん熱や酸に強い芽胞にする製法が難しいからだと思います。研究所に勤めている大学時代の同期に、「よく芽胞にできたね~やり方教えて~」って言われました。納豆菌は納豆のなかでも勝手に芽胞になっているのですが、有胞子性乳酸菌は、勝手に芽胞になりません。いろいろコツが必要です。リラ子もそれなりに苦労しましたが、ライラちゃんと対話しながら気合で頑張りました。

 こんなところが世界でも流通している株が少ない理由だと思われます。以前調べたときは、日本に2株、アメリカに1株、インドに1株、イタリアに1株でした(今は増えているかもしれません)。


(3)日本で単離されて販売している有胞子性乳酸菌:

①ラクボン株 Bacillus coagulans SANK70258

1949年に中山先生が緑麦芽から単離されたうちの一株のラクボン株(SANK70258, パンラクミン錠という薬に入っている)は、食品添加物として販売されているラクリス(三菱ケミカルフーズ)と、同じ株です。1960年代から薬は販売されていてなんと50年以上。素晴らしいですね~ ということで、有胞子性乳酸菌は食経験がある安全な菌だと認められていて、今ではプロバイオティクスとして世界中で利用されています(前に書いたもう一種類の芽胞がある乳酸菌は食経験がありません)。

ライラック乳酸菌 Bacillus coagulans lilac-01株

長くなるので、ライラック乳酸菌 Bacillus coagulans lilac-01株については、次に書きました。(特許株ですので、菌末はアテリオ・バイオ経由でしか購入できません) 次に続く↓

https://arterio.co.jp/2020/06/25/spore-forming-lab-2/


*1:新属提案の二女ドレミちゃんの話 https://arterio.co.jp/2016/12/21/doremi/

新属提案の論文はこちら Minamida, K., Ota, K., Nishimuki, M.,Tanaka, M., Abe, A., Sone, T., Tomita, F., Hara, H., and Asano, K.: Asaccharobacter celatus gen. nov., sp. nov., isolated from rat caecum. Int. J. Syst. Evol. Microbiol., 58, 1238-1240 (2008).
https://ijs.microbiologyresearch.org/content/journal/ijsem/10.1099/ijs.0.64894-0

ウィキペディアは、こちら https://en.wikipedia.org/wiki/Asaccharobacter_celatus 
Asaccharobacter celatus Minamida et al. 2008 (リラ子の名字はMinamida)

①中山先生の論文: Nakayama O and Sakaguchi K, Studies on the spore-bearing lactic acid-forming bacilli. Nippon Nogeikagaku Kaishi (in Japanese), 23, 513-517 (1950).
②ラクリス(三菱ケミカルフーズ)
https://www.mfc.co.jp/product/rakurisu/about/index.html
③ラクボン(パンラクミン錠(第一三共ヘルスケア)
https://www.daiichisankyo-hc.co.jp/products/details/panlacmin/
④世界中でプロバイオとして使われているという論文の一部
・Endres JR, Clewell A, Jade KA, Farber T, Hauswirth J, and Schauss AG, Safety assessment of a proprietary preparation of a novel Probiotic, Bacillus coagulans, as a food ingredient. Food Chem. Toxicol., 47, 1231-1238 (2009).
・ Hong HA, Duc le H, and Cutting SM, The use of bacterial spore formers as probiotics. FEMS Microbiol. Rev., 29, 813-835 (2005).
・Matsuzawa T, Iwado S, Kitano N, and Suzuki Y, The biological effects of spore bearing lactic acid bacteria, Lactobacillus sporogenes, in chickens. Japan Poultry Sci. (in Japanese), 9, 153-158 (1972).

筆者について

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