肉食系と草食系、どっちが健康に良いのでしょうか?

ライオンとカモシカ
ライオンとカモシカ

草食動物と肉食動物では何が違う?

最近、糖質オフダイエットが流行しています。糖やデンプンなどの糖質を食べないで、タンパク質や脂質を中心に食事を摂る完全な肉食系です。それに対して伝統的な食事はご飯を中心にデンプンをたくさん摂る食事で、どちらかというと草食系です。どちらが健康的か、いろいろと議論があります。ヒトも動物ですので、進化の歴史をさかのぼるとその答えが見えてきそうです。さてあなたはどっちが健康だと思いますか。

まず肉食動物ですが、ライオンなどのネコ科の動物は肉食性が強く、食性として肉を好みます。狩りで獲物をしとめると内臓から食べるという話がありますが、これはどうも食べやすいところから食べているだけで、栄養を考えているわけではなさそうです。肉だけ食べていても生きてはいけるようです。

草食動物のオナラはあまり臭くありませんが、肉食動物のオナラはそうとう臭いそうです。オナラの量は草食動物の方が多いかもしれません。肉を食べた次の日のオナラが臭いというのは、誰でも経験があるのではないでしょうか。

オナラの臭いは腸内細菌が関係しています。草食動物でもウシは四つの胃を持ち、第一胃で発酵して増えた微生物をタンパク質として利用できます(前腸発酵動物)。ウシなどの特殊な例を除いて両者を比べると、草食動物でも肉食動物でも腸内細菌の構成はあまり変わりません。草や葉はタンパク質や糖類が少ないので、大量に食べる必要があります。それもいろいろな種類のものを食べるのではなく、ある種類のものに限定されている場合が多いのです。それは特定のエサに高度に適応していることが多いからです。

このように自然界の動物は健康かどうかというよりも、限られた環境の中で生き延びる方法を見つけ出してきたと言えます。総じて草食動物の方が肉食動物よりも体が大きく、長生きです。それは「食べ物が逃げないから」であり、体が大きい方が心拍数が少なく、寿命が長いといわれています。

草食動物と肉食動物とでは腸内細菌の構成はほぼ同じですが、活躍する菌は違ってきます。草食動物では善玉菌が活躍しているのに対して、肉食動物系では悪玉菌が増えてしまいます。悪玉菌がつくる腐敗物質が悪臭の原因です。どちらが健康的かの話の前に、それぞれどのような経緯で発達して来たのかを考えてみましょう。肉食動物と草食動物それぞれに生存のための戦略があります。

腸の進化の中にオナラの真実が隠されている

動物のオナラは、肉食と草食ではどう違うのでしょうか。動物園に行くと、運がいいとオナラを観察できます。ゾウのオナラは「ブルル」「ボボボ」だそうです。ラクダは「ビビビ」。ライオンのオナラを聞くことは少ないですが非常に臭いそうです。ゾウやラクダなどの草食動物のオナラは量や回数は多いですがあまり臭わず、ライオンなどの肉食動物では頻度は少ないですが非常に悪臭を出します。

ヒトを含めて動物の腸は、食べているものによって機能や形が違います。特に草食動物と肉食動物では大きく違っていて、消化管の長さで比較すると、肉食動物ではネコで体長の3~4倍、イヌで5~6倍なのに対して、草食動物ではウマで12倍、ブタでは14~15倍です1)。草食動物では消化しづらい植物を消化・吸収するために長い腸になっていると考えられます。
ヒトでは体長の7.5倍1)と肉食動物と草食動物の中間の数字です。ヒトの腸は形や働きから見て、本来は肉食であったものが進化の過程で草食も取り入れるようになったと考えられるそうです。

先に肉食動物が存在した

陸上動物の祖先である魚類は単純な一本の消化管を持っています。3.5億年前に魚類から陸上に上がったものが両生類になり、このとき大腸ができました。

そもそも大腸が出現したのは、大切な水分を徹底して吸収するためと、敵から身を守るためと言われています。排泄物を垂れ流しにしたのでは敵に狙われてしまうからです。私達がおむつをしないで生活できるのも大腸のおかげなのですね。

食性は基本的に肉食で、捉えやすいものは何でも食べていたと考えられます。体を構成するタンパク質を摂るには自分と同じタンパク質でできた動物から摂る方が簡単です。動物の消化管は、口から食道を通って胃に入り、小腸で消化吸収が行われて、大腸でウンチがつくられ、肛門から排出されます。

初期の哺乳類はモグラなどの食虫類のような肉食性の動物といわれています。植物をいったん虫に食べてタンパク質に変えてもらい、動物がそれを食べるという段階を踏まなければなりませんでした。

肉食動物に遅れて3億年前ころに草食動物が現れます。これは画期的なことでした。膨大な食料資源を直接利用できるようになったからです。

草食動物と肉食動物を比べると、草食動物の方が大型化しやすく、寿命も長くなる傾向があります。草食動物が肉食動物と違う最大の特徴は何かというと、それは消化管の中の微生物の量なのです。草食動物は消化管の中に大量の微生物を飼っていて、その微生物を使って消化しにくい食物繊維を消化し、そしてタンパク質までも摂ってしまうすごい生存戦略を持っています。

かたや肉食動物の方はどうでしょうか。ライオンやトラなどのような肉食性が強い動物では腸が短く、消化管の中の微生物の量もそれほど多くありません。

肉食動物では生死をかけて獲物を獲得しなければなりません。そのチャンスはいつ来るかわからず、かなりの時間を腹ペコで過ごすのです。腹ペコの時、脳にもエネルギーを送る特別な仕組みがあります。それがケトン体といわれるものですが、その話はまた別の機会に。

生活習慣病の予防は、草食動物を見習うべし

自然界の動物は捕食されたり、闘争が原因で死んだりして、健康に一生を全うすることが困難な場合もありますが、ペットであればそのようなことがありませんので、健康かどうかの指標として寿命を取り上げるのがいいと思います。

2008年からの10年間で犬の寿命は8.4ヶ月、ネコは6ヶ月伸びました2)。人間の年齢に換算するとイヌは4~5歳、ネコは3~3.5歳延びたことになるそうです。これはこの間の日本人の平均寿命の延び、男性1.8歳、女性1.2歳を大幅に上回る数字です。

イヌは基本的に肉食系の雑食、ネコはさらに肉食性が強い動物です。そう考えると肉食でも健康に問題はなさそうですが、実はこの10年間にペットの生活環境が大きく変化しています。

専門家向けになりますがペット腸内細菌叢についての解説によると、ヒトとペットでは腸内細菌叢に大きな違いはありません。ペットの寿命が大きく伸びたのはペットにかける診療費が大きく伸びたことと、与えるエサの改善が大きく寄与したと考えられます。

特に最近のペットフードでは腸内細菌叢を改善する成分が非常に充実しています(こちらを参照)。成分を見るとヒト以上に理想的な配合となっており、食物繊維の摂取量が少ない最近の日本人よりも腸内細菌に良い食餌といえます。

一方で、肉食動物はがんになりやすい傾向があります。12歳のイヌの罹患率は平均17%という数字があります2)。ヒトでは80歳で男性では3.5%、女性で1.5%程度です(日本人の場合3))。

またネコは肉食性が強いため、泌尿器疾患、特に腎不全が多いのが特徴です。これは腸内の腐敗物質が腎機能の低下を促進するためと考えられます。14歳のネコの21.7%に腎不全が見つかっています2)

このように自然の状態ではがんや腎不全など、食餌に伴う病気になり易かった肉食動物ですが、食餌の改良などによって大きく寿命を延ばしてきたということは事実です。これはヒトにも当てはまることで、糖質オフなどのダイエット法が流行っていますが、タンパク質を多くとる食餌では腸内環境の改善は必須条件です。

(参考文献)
1) ウィキペディア
2) アイコム損保「家庭の動物白書2014」
3) がん研究振興財団,「がんの統計’12」
4) アイコム損保「家庭の動物白書2019」

筆者について

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